料理の仕事をしていると、よく言われる言葉があります。
「これ、おいしそう。レシピ教えて」
「○○を作りたいんだけど、配合教えてもらえますか?」
「これを米粉にするなら、何gにすればいいですか?」
料理やお菓子が好きだからこそ聞いてくださるのだと思いますし、「作ってみたい」と思ってもらえること自体はとても嬉しいことです。
でも、少し複雑な気持ちになることがあります。
レシピは「材料と数字」だけではない
たとえば、
薄力粉100g
砂糖50g
卵1個
と書かれていれば、それがレシピに見えるかもしれません。
でも、私にとってレシピ作りは、材料と数字を書き並べることではありません。
最初に配合を考えて、一度作る。
食べてみる。
「もう少し軽くしたい」
「甘さを少し減らしたほうがいい」
「この温度では焼き色がつきすぎる」
「翌日になると食感が変わる」
そんなことを考えながら、また作ります。
うまくいかなければ配合を変え、温度を変え、作り方を変える。
一度で決まることもありますが、何度作っても納得できず、しばらく寝かせてからまた作り直すこともあります。
レシピとして表に出ている数字の後ろには、そうした時間があります。
「これを○○に替えるなら?」も、実は新しいレシピ
よくあるのが、
「薄力粉を米粉に替える場合は何gですか?」
といった質問です。
単純に同じ量に置き換えればよいものもありますが、そうではないものもたくさんあります。
粉が変われば、水分の吸い方も食感も変わります。
砂糖を減らせば、甘さだけでなく焼き色や食感まで変わることがあります。
油を減らしたり、卵を替えたりする場合も同じです。
「ここを替えたい」という一つの変更から、結局ほかの材料まで調整することになる。
そうなると、それはもう「ちょっと置き換える」ではなく、新しいレシピを作ることに近いのです。
ですから、作ったことのない配合について、その場で「○gにすれば大丈夫です」とはなかなか言えません。
レシピ公開について
これまで、ブログやSNS、YouTubeなどでレシピを公開してきました。
無料で見られるレシピもあります。
でも、「無料で公開されている」ということは、「ほとんど手間をかけずに作られた」ということではありません。
無料で公開するレシピであっても、試作をして、分量を確認して、文章にまとめ、必要なら写真や動画を撮ります。
有料のレッスンやコンテンツなら、さらに細かく検証し、失敗しやすいところを確認しながら内容を組み立てます。
たまたまその場で「これくらいなら」と答えられることがあるのは、それまでに何度も作り、失敗し、考えてきた蓄積があるからです。
作ってもらえるのは嬉しいですし、「おいしくできました」と言っていただけることは、この仕事をしていてよかったと思う瞬間です。
きちんと作ったレシピを、きちんとした形で届けたいと思っています。
まだ試していない配合を思いつきで答えたり、「たぶんこれくらい」で数字をお伝えしたりするのは、後になって後悔すると思うのです。
一つのレシピができるまでには、見えない時間がある
完成したレシピを見ると、とてもシンプルです。
材料が並んでいて、その下に作り方がある。
数分で読めてしまいます。
でも、その数分で読めるものを作るために、何時間も、ときには何日も使っています。
材料費もかかりますし、失敗したものがすべて無駄になることもあります。
そして何より、これまで何年もお菓子を作り続けてきた経験が、その一つのレシピの中に入っています。
だから、「レシピ教えて」と聞かれたとき、ときどき答えに困ってしまうのです。
レシピは、単なる材料の数字ではありません。
作って、食べて、考えて、直して、また作る。
その繰り返しの先にあるものです。
最近、少し考えていたことを綴らせていただきました。